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 5月30日(月)大阪・いずみホールで作曲家の伊左治直さんがイラストレーターの名倉靖博さんを迎え構成・演出したコンサートが行われた。
 昨年の夏ぐらいからこの企画は始まったそうで、コンサート終了後には、当日の録音が編集され、名倉さんの絵と伊左治さんの音楽がひとつになったCD絵本が来場者の手元に後日届くということでこの企画は終了するという仕組み。演奏会を体験するということはどういうことなのかを伊左治さんが考えた結果。
 舞台の構成は大きく前半と後半に分かれていて、その間奏者が入れ替わって演奏し音楽が途切れることはない。舞台装置は、大きな鏡や屏風、布、そして名倉さんの映像、点在する椅子。曲目は、伊左治さんのオリジナルからボサノヴァの編曲されたものまであって、演奏家もさまざまなジャンルのひとたち。リハーサルは東京で何度か行われ、そこで舞台上の動きなどをあらかじめ聞いていた。
彼はもう一度いちから筝の音を聴きたいということで、鎌倉の私の家までわざわざ出向いて筝の伝統的な奏法から特殊奏法まですべて録音して取材してくださった。その音素材や今までの録音が藤井健介さんという若い作曲家によって編集され、開演前後、休憩中に流れた。
すべてが丁寧に、たくさんのひとの力によって作られている。
 私が演奏したのは「南蛮シングル」というオリジナル曲、共演はホーメイ(ロシア連邦トゥバ共和国に伝わる倍音唱法)の岡山守治さんと尾引浩志さんと伊左治さん。
ホーメイの方との共演は初めてだから興味津々。声が出始めると部屋の空気は突然色が変わってどこかちがう世界にでも飛んでいったような気になる。からだから出ている声なんだろうけれど、そのどこから音が出ているかわからないような不思議な感じ。倍音がはもったり、震えたり、揺れたりするとそれだけでどんどん風景が変化していく。伊左治さんの曲のリハーサルなのに、つい、いろんな技を聴かせてもらったりして感激していた。ホーメイのパートは即興的で自由度が高かったので、リハーサルのたびに少しずつ変わっていくのがまたおもしろい。私の筝のパートは彼らしい旋律があり不思議な音もありで、それとホーメイ、彼の出すさまざまな音が混じるとまさに伊左治ワールドといった感じ。
 もう一曲は、ボサノヴァ。ギター・ヴォーカルは犬塚彩子さん。それにホーメイのふたりとパーカッションの大橋エリさん、チェロの北口大輔さん、伊左治さん、そして私が加わる。彩子さん以外はみんな即興。私はボサノヴァが大好きだから、もうすっかりいい気分。ただただ楽しんでいた。
本番ではこのボサノヴァの曲が終わったら、舞台のあちこちに用意された電灯のついた椅子にそれぞれが移動し座って最後の曲(ヴァイオリン・松原勝也さん、ピアノ・中川俊郎さん)を聴き、演奏会は終了する。それがまるで、お祭りの後それぞれの家に帰っていくようでちょっとさみし気でもあり、流れた時間の余韻を懐かしむようでもあり、舞台は不思議なやさしさに包まれる。名倉さんの絵が映像になって、無関係に流れている。
 本番の前数日は毎日東高円寺のスタジオでリハーサルがあった。小雨が降った日も、新宿でサンドウィッチと水を買って近くの公園の木かげでひとりランチをした日もあった。日常生活の中である時間、ある場所で仲間と会い、音楽をする。そこで作られたものがたった一回聴衆あるいは観客の前で演じられる。
それはひとつの特別な時間で、終わってしまえばすべての人はまたそれぞれの日常に帰っていく。聴衆も奏者も。。。
非日常だけど、それは日常の中にふくらんだ風船みたいに空の彼方に飛んでいく。
プログラムにはブラジルの詩がいくつか載せられている。
確かに抵抗歌ということだけにとどまらない。
怒りとかなしみと孤独と、そして最後に、希望。
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