前半のプログラムは、
●上弦の曲(沢井忠夫作曲)筝&フルート
● Air (武満徹作曲)フルートソロ
●月夜の海(西陽子作曲)十七絃ソロ
● Spice (名田綾子作曲・世界初演)筝&フルート
出番直前はやっぱり緊張。それでも舞台で一音出した瞬間に、「演奏できて本当に幸せ。」というシンプルな気持ちでいっぱいになったのです。
「上弦の曲」は、波に乗って。「月夜の海」は、自分のオリジナル曲ということもあるし、十七絃の深い低音の響きに心が落ち着き、「Spice」はリズムに乗って楽しく演奏できました。
休憩は15分。でも、私にとっては貴重なチューニングタイム。
いろんなタイプの曲を演奏する時には、筝の場合、チューニングの作業が待っており、海外では1面の楽器ですべてを演奏しなければならないことも多いので、その準備で舞台に立っている時よりもよほど必死で殺気立っています。時間を気にしつつ、耳を集中させ、段取りを考えながら・・・。汗だくです!
さて、いよいよ後半。チョコレートを一粒と水分補給!これじゃまるでスポーツ選手?(笑)(そういえばお化粧直す時間もなかった・・。)
後半プログラムは
●春の海(宮城道雄作曲)筝&フルート
●筝と打楽器のための練習曲No.1 (神田佳子作曲)筝&ジャンべ
●デジタルバード組曲 作品15番(吉松隆作曲)フルート&ピアノ
●インドラの網(武智由香作曲・世界初演)筝&フルート
カーネギーホールは下見することもできなかったので、舞台裏から楽屋までの距離や動線は全く考えておらず、コンサートが始まってみたら、舞台裏と楽屋にはゆるやかだけれど坂があり、階段があり、1曲演奏するごとにチューニングのために楽器を持ってそこを往復します。まるでトライアスロン?(笑)。
終演後のレセプションで「西さんは演奏される前、いつもにっこりされていましたね。」と言ってくださる方がいて、「えっ?そうでしたか?」と、自分でも意識していなかったのでびっくりしましたが、舞台裏で必死で準備をしながら、これからようやく演奏できる喜びでいっぱいだったのだろうと思います。
まるでごちそうを目の前にしたこどものように(笑)。
楽器を持って走りながら、走る速度は曲を追うごとにだんだん遅くなってきたような気がしたけれど、志半ばで亡くなった親友や教え子のことが頭に浮かんできました。そのときの気持ちは説明できないけれど、後押ししてくれたことにはちがいありません。
「春の海」は、筝の定番ですが、生で聴く機会というのは意外とないそうなので、ゆったりとした気分を味わっていただけたと思います。
ジャンべとの「練習曲No.1」は、共演者のヴァレリーさんともすっかり仲良くなり、ピタリとお互いの息を合わせなければならない難所があるこの作品。
今日はどうなることでしょう?
さあ!これから演奏というときになって、私、はたと忘れものに気がつき、舞台の上で” I’m sorry ! ” と言って、楽屋まで忘れ物の取りに行くことに・・・。客席から笑いが・・・。(ヤッテシマッタ!)
でもね、この曲は、打楽器奏者が「先生」役、筝奏者は「生徒」役。ピアノの練習曲ハノンのメロディーを先生のたたくリズムに合わせて練習し、最後は左手にも爪をはめて弾いてしまうよいう遊び心たっぷりの楽しい曲。ヴァレリーさんは表情豊かで、いかにもアフリカの打楽器奏者らしく、大らかで自由な人。
彼女はもはや舞台では先生になりきっていて、「忘れ物?いいでしょう。取りに行ってらっしゃい。」と言わんばかりのジェスチャーで私を舞台から楽屋に送り出してくれました。
そして、あわてて戻ってきて、今度こそ、レッスン開始!
決めなければならないところはすべてピタリと決まり、ふたりでにっこり!
最後は盛り上がって、お客さんたちも大喜びしてくれました。
いよいよ最後の曲・「インドラの網」は、東日本大震災への追悼の思いと祈りをこめて書かれた作品です。
つづく