後半は未来に向かう箏をテーマにプログラムを組みました。

まずは、箏の可能性を極限まで抽き出した神田佳子さん作曲の「箏と打楽器のための練習曲No.1」。

 

これぞ箏の曲弾き!

 

今もこの曲を超えるユニークな作品はありません(断言!笑)。

左手に爪をつけて弾くのはもちろん至難の業だけれど、それよりもこの曲が八橋検校の考案した日本の伝統的な音階・平調子でできているということが本当にすごいと思うのです!(神田さん、天才!)

演奏というべきかパフォーマンスというべきか、打楽器奏者は先生、箏奏者は生徒という関係で、ちょっとしたストーリーのある芝居仕立て。それを音で展開していくのですが、笑いが出て、驚きがあって、楽しい!

大家さんの厳しくも優しい、ちょっと明治の文豪的なエヘン先生と、すぐ怠けてしまう優柔不断で情けない生徒の私との、ユーモアあふれるやりとりはお客さんに大層ウケました!

 

神田さんがこの作品を作曲されたのは、高橋悠治さんプロデュースの伝統楽器によるユニット「糸」の活動中。「ねえ、なんで左手に爪つけて弾かないの?横からだと弾けるんじゃない?」「あ。面白い!やってみるね。できるかも!」なんていう会話から出来上がっていった作品。「糸」の定番曲となり、どこで演奏しても大好評でした。

「糸」の練習場は、当時私が住んでいた江古田駅前のマンションのお部屋でした。作曲家の方達もたくさん集まって、楽器を囲んで演奏家と作曲家で新しい作品を生み出していきました。長時間一緒に過ごし、食事をしたり、広いベランダがあったので夏は花火をしたこともありました。

完全分業ではなく、特に伝統楽器や民族楽器の場合は一緒に楽器の性能を探りつつ作曲家と演奏家が一緒になって作っていくのは理想の環境。高橋悠治さんはリーダーの高田和子さんと共に、コンサートの機会を作ってくださり、作曲家に声をかけ、私たち演奏家にも多くのことを教えてくださいました。その時のご指導は私の音楽の礎であり宝物です。いろいろなものが混じりあったり、雑談があったり、無駄と思われるものの中に新しいものを生み出すチャンスが潜んでいるんですよね。

今まで見たこともないような新しくしかも質のいいものを生み出そうと思えば失敗や推敲も重ねるから時間もお金もかかります。ましてやグループとなれば・・・

「糸」は理想でした。

高田和子さんと高橋悠治さんに守られ、環境を作っていただきました。そして、私たち演奏家も作曲家も若かった。仕事もお金もほとんどなくて、時間がいっぱいあって、社会的にも家庭的にも抱えているものがほとんどなくて、私たちは自由なひよっこでした。だからこそできた部分は大きい。その年齢にしかできないこともあるのですよね。

 

高橋悠治さんの時代、沢井忠夫先生の時代、世界を見れば20世紀の音楽は刺激に溢れていましたし、私にとってはまさに憧れでした。作曲家と演奏家が共に輝いていた時代・・。

古典では藤井久仁江先生、米川敏子先生、横山勝也先生、山口五郎先生をはじめとする名人が綺羅星のごとくいらして、その音を生で聴けたことは私にとって何物にも変え難い貴重な経験です。

今から思うと、どの先生の芸も個性が際立っていて、スケールが大きかった。

お人柄も、余裕があっておおらかでチャーミング。近寄り難いけれど、人間味にあふれた先生方でした。

 

私たちの時代は?

うむ・・・自分たちには見えないものですね。

でも、生きている限りは自分に与えられた場でいいと思うものを生み出し、作り続けたいと思います。

 

そして、今の若い人たちが生み出す音楽は?

昭和生まれの私たちとは明らかに文化の隔たりがあり、だからこそきっと私には想像もつかないものが生まれると思うとワクワクします。

 

動画配信、SNSなど発信の方法はどんどん新しくなるけれど、果たして箏の音楽そのものはどうだろう?と考えます。

 

ふむ。まだまだまだまだ・・・・。

See you soon!